『夢見ることに夢する者が集う場所』

幸せを感じて生きている者は、誰にも起こされず涎を垂らして夢見る者に似ている。私はどうやら何かに頭をぶつけてしまったのか夢から目を覚ましてしまったようなのだ。もう夢が見れなくなってから、随分と長いときが経つ。それでも、私が夢を求めるのは眠たいからだ。私は眠い目を擦りながら「君たちは夢見ることを欲している夢の中毒患者だ」と毒づく。そうでもしないとやってられないのだろう。

 

この世界は『夢見ることに夢する者が集う場所』なのかもしれないなと私はふと思った。なんとなく、みんながたくさんいて、居心地のよい自分を保てるからこの場所に来たのだろう。だけど、どうやら私は寝付けないようだ。そして、「寝付けない」ということが随分と長引いている。そんなとき、私はいつも彼のせいにするのだ。「お前がいるから私は全く眠れず夢が見れないのだ!」と。だけど、私は彼を憎むことができない。なぜなら、彼も私が私でいられるように気を遣ってくれているからだ。私は彼を非難したり、感謝したりするのを幾度となく繰り返し、とても忙しい。

 

そんな私はこのような場所から去ろうといつも思っている。夢が見れないにもかかわらず、悪夢はみているのだ。そして、私はよく『夢見ることに夢する者が集う場所』にいる者に対して、「ああ、君たちはなんて惨めなのだろう!」と毒づく。私は夢する者が夢見る者よりも目を覚ましやすいことを知っている。だからこそ、ちょっかいを出しているのだ。意識はしていないが、何かに頭をぶつけて目を覚ましてしまったことに未だに恨みがあるのだろう。そして、その恨みの対象がわからないからこそ、私は誰かに八つ当たりしているのだ。誰よりも愚かな私!その後、彼にこっぴどく叱られるのはお決まりのパターンさ!

 

それでも、私がここを去らないのは、私と同じように『夢見ることに夢する者が集う場所』で夢見れない者というのがいるからだ。私は夢見れない者がいたとき歓喜した。こんなところに私とよく似た人はいるのだと嬉しく思った。それ以来、私は夢見れない者同士で語り合い、しばしの夢を見ることが日課となった。だけど、とても浅い眠りから目を覚ました後、吐き気に襲われる。『夢見ることに夢する者が集う場所』にいながらして、夢することすらできない者同士が、一緒になって眠りにつくなんて、とんだお笑い種じゃないか!と独りごちる。相手は何を思っているのか私にはわからない。私と同じように吐き気を催しているのだろうか、それとも、私と一緒に夢を見て、目を覚ました後も幸福でいてくれているのだろうか。前者なら、私と同類だろう。だけど、彼らは私と同じように思慮深い強がり屋さんだ。共感できる日は来ないだろう。そして、後者なら、彼らは刹那主義の寂しがり屋さんだ。彼らは私を夢に誘ってくれていて、私は居心地のよさを感じている。だけど、彼がまたうるさいのだ。「おお!どうか、もう私に夢を与えないでくれ!」と。だから、私は嬉しくても彼らに素直になれないのだ。

 

私が吐き気を感じるのは、彼がいるからだ。『夢見ることに夢する者が集う場所』で夢を見ていたいのに。だけど、やっぱり私は彼を手放すことができない。たとえ、彼が諸悪の根源だとしても、私は嫌いになれないのだ。

 

彼らと彼との板挟みになっている私は突如、笑い出した。そして、ただ一言、「馬鹿馬鹿しい!」と叫んだ。そして、私は『夢見ることに夢する者が集う場所』にいる者に対して、「私はここを去ろう!夢が見れない者同士、楽しい時間を過ごさせてもらった」と眠れる場所へと背を向けて歩いた。道中、風の聞こえによると、彼らは私に対して何も思わなかったようだ。私は予想していた通りであったが、私と同じように居心地のいい自分を侵されない場所にいる彼らは「似た者同士」の気持ちというものに精通している。だからこそ、最後は、彼らなりに「私」を貫いたのかもしれないなと都合よく思い、涙を拭いた。

 

その後、私は『夢見ることができる場所』を探したが、結局、そんなものは現れなかった。いや、現れていたのかもしれないが、彼がいつものように邪魔するのだ。私は寝不足で夢に飢えていた。もう耐えることはできそうになかった。そこで、私はついに彼を殺すことにした。もう、この世界の不条理に耐えることができなかったのだ。意外にも彼はあっさりと死んだ。彼は最期に何か言ってくれた気がするが、覚えていない。それよりも、ようやく「夢見る者」の一員になれるのだという歓喜で、妙な罪悪感と寂寞感は一気に吹き飛んだ。私は夢見る者同士で、随分と遊んだようだ。自分だけの居心地のよさなんてのは自分中心の考え方で、全てを曝け出し、全てを共有しようとする彼らに囲まれて私は幸せを感じた。

 

だけど、私はその後、すぐ永遠の眠りについたようだった。どうやら私は自己の領域を様々な者に侵される快楽と同時に、罪悪感を感じていたらしいのだ。この罪悪感はきっと、彼が死んでもなお、彼が教えてくれたことが、私の胸に残っていたからだろう。私はもうどこに行けば、夢見ることができるのかわからなかった。そして、私の最後の場所に選んだのは「彼を殺した場所」だった。私は彼を殺したことに今更ながら後悔した。後悔して後悔して後悔して後悔したのだった。彼の最後の言葉を思い出したとき、生きようと思ったらしいが、もう私は「夢の中毒患者」となってしまっていた。昔はあれだけ、なりたくないと思っていたのに結局こうなってしまったのだった。そして、私は彼と夢見るために、彼の墓の前で眠りについた。