灰と眠れ

煙草を水曜日の夜に吸った。
お香の灰と煙草の灰が混ぜてみる。
すると白蛇の鱗のような、いつ朽ちるともしれない灰は灰に還る。
もちろん灰なのだから特別に書くようなことはないと思う。
それでも私はあの剥がれかかった壁面の塗装のような灰、灰とのみ記すにはあまりに説明に欠けた灰、つい手を出さざるを得なくなるような浮ついた白い灰が気にくわない。
昔、身体測定の順番待ちをしている最中に壁をぼうっと見つめていると剥がれかかった塗装があった。
壁と塗装の間に爪を入れ込むとぺりぺりと小気味のよい音をたてるのが心地よく、爪に外壁の破片が刺さって血が滲んでも無心になって塗装を剥いで、剥き立ての卵のように生まれ変えては一人悦に浸っていたものだった。
気づくと私の近くに破片が散らばっていて、遠くにいくつかの視線を感じた。
近くの破片の存在がやけに私を孤独にさせた。
(そういえば、あのとき僕は身体測定が終わった後、「壁を剥いで汚したのは誰ですか?」と問われて挙動不審になったのだっけ。そして周囲の目線に耐えかねて、何も言わずに手を挙げたことを覚えている。そして僕は職員室で怒られた。気をつけますと言ったきり済むと思いきや、マイナスをプラスに変えるにはどうしたらいいか、と問われて普段からゴミを拾いますと言ったのだった)
私は一人きり。
煙草を吸い終わると黒と白から成る灰を丹念に混ぜて灰色に返す。
これは夜、私が孤独に悲しまないようにする無意識的な儀式である。